どの言語を学ぶか? 見落としがちな「コスパ」の視点


外国語を学ぶ際に、どの言語を選ぶかを最初に決める必要があります。
もちろん趣味、仕事の必要性、友人がいるなどいろいろな要素がありますが、言語ごとの特性を知っておくとよいでしょう。

以下に、私の独断と偏見で「習得難易度」と「利用機会の広さ」から各言語をレビューします。「利用機会の広さ」÷「習得難易度」=「その言語を学ぶコスパ(CP)」と言い換えてもいいかもしれません。

こういったことは、その言語を専門にする人に聞いてもわかりません。自分が教える学ぶ言語は神聖にして不可侵なものというとらえ方だからです。一方、多言語話者を目指すサラリーマンにとってはコスパの視点は非常に重要です。
なお、ここで言う「習得難易度」とは「履歴書に書けるレベル」までの所要時間や、独習を前提とした学習環境の充実度合い(テキストの多さなど)を示しています。



英語

  • 習得難易度:2(1低~5高)
  • 利用機会:5
  • CP:5÷3=1.7
外国語学習といえば一番メジャーなもの。履歴書に書けるレベルは、おおむね英検2級くらいからでしょうか。TOEICでは海外部門の平均が679点となっていますが、いささか低い気がします。昔は840点からが上級と言われていた気がします。
2013年の調査では、中途転職で期待されるスコアが710点というデータもあります。現在はもう少し期待レベルが上がっているかもしれません。
学習環境は充実しており、義務教育での取り組みも実践的になりつつあります。英語そのものの難易度が低いとは思いませんが、日本人であればある程度学習の蓄積がありますので、それほど難しいとはいえないでしょう。
利用機会の広さは言うまでもありません。

中国語(普通話)

  • 習得難易度:3(1低~5高)
  • 利用機会:4
  • CP:4÷3=1.3
中国語については、文法が簡単だが発音(4声や中国語独自の音)が難しいというのが一般的な評価です。私に言わせれば文法も簡単とは思いません。独特なルールがあります。ただし、発音は割り切ってしまえばそれほど難しくありません。記事で詳しく述べますが、「発音から入る学習法」が中国語のハードルを不必要に上げてしまっているのです。

中国語の隠れた課題は「語彙」です。中国語の試験は文法でバリエーションが出しにくい分、難易度を「語彙のレベル」で調整していると思う事も少なくありません。日本語の熟語に近い単語もありますが、まったくかけ離れた物も多いです。また、日本語の漢字と異なる意味の物もそれなりにあります。
学習環境は非常に充実していると思います。今や英語に次ぐと言ってもいいでしょう。

2010年頃から訪日中国人は爆発的に増加し、今では地方都市でも中国人を見かけないところはありません。これは海外でも同様で、アジアはもちろんアメリカでもヨーロッパでも中国の旅行者は非常に多いです。
多少チャイナリスクが敬遠されてきたとはいえ、まだまだ仕事で必要とするという方も多いと思います。
また、海外の大都市にはたいてい中華系のコミューン、いわゆるチャイナタウンがあります。チャイナタウンは慣れしたしんだ中華料理が食べられ手ごろな宿も多く、日本人旅行者には何かとありがたい存在。イスラム圏でもチャイナタウンなら酒が飲めたりします。
中国語ができれば、何かと役立つでしょう。
中国語の話者数は13億以上。世界最大の言語人口となっています。

日本人は漢字圏に暮らしており、非漢字圏の人に比べて中国語の取得は100倍ハードルが低いと行っていいでしょう。個人的には、日本に生まれて中国語を学ばないのはもったいないと思います。

ドイツ語

  • 習得難易度:4(1低~5高)
  • 利用機会:2
  • CP:2÷4=0.5
こちらにヨーロッパ言語の語彙の類似性を示したチャートがあります。
Lexical Distance Among the Languages of Europe

英語とドイツ語が近いとか(ゲルマン語派)、フランス・スペイン・イタリアが近いとかいろいろ分かりますね。
このチャートにもとづくと英語の次はドイツ語...という考え方もありますが、ドイツ語は習得が難しい言語として知られています。
名詞や代名詞は性や形容詞の有無によって変化し、動詞も主語や時制で変化します。その変化のルールをすべて覚えるのは至難の業。ルールを覚えてしまえば簡単...という意見もありますが、まず初期に乗り越えるべきそのルールが鬼という印象です。
一方で、発音は基本的にはアルファベット通り、カタカナ的で日本人にも発音しやすいです。しかし、全般には難易度の高い言語と言えるでしょう。

全世界でのドイツ語話者は1億人以上、ドイツおよびスイス、ベルギーなどで公用語となっています。意外なところではトルコでも通じることがあるとか(ドイツで出稼ぎしていたいトルコ人など)。

フランス語

  • 習得難易度:3(1低~5高)
  • 利用機会:3
  • CP:4÷3=1.0
フランス語の一般的な評価は、発音がやや難しく、文法はドイツ語ほどではないがえいごよりも難しい、という感じでしょうか。フランス語も複雑な変化や活用のルールがあります。名詞にも性別があり、男物のシャツが女性名詞、女性物のブラウスが男性名詞になるという事実には閉口しました。しかし、全般的にはドイツ語よりやや低い難易度かと思います。
学習環境はドイツ語よりも充実していると言えるでしょう。フランス語学校の数や参考書の量はドイツ語を圧倒しています。
フランス語の特徴は、スペルの重要性でしょう。普段発音しない単語末尾の子音も、その直後に母音が来ると発音しなければならなくなります(リエゾン)。つまり、今口にしている音声はどう綴るのか、ということを念頭に置いておかなければ発話が難しいということになります。その意味では極めて知的な言語と言えるでしょう。

フランス語はその柔らかい響きや、フランスという国の華やかなイメージともあいまって魅力度の高い言語だと思います。日本のフランス語学校でもシェフやパティシェ、ファッション業界などの方をよく見かけるそうです。
全世界でのフランス語話者は1億人以上で、ドイツ語より若干少ないという資料がほとんどです。ただし、ドイツ語の話者がほぼドイツに集中しているのに対し、フランス語の通じるエリアは広い植民地支配の経緯をふまえ、アフリカやカナダ、南の島など広範囲に渡っています。中東でもフランス語話者が増えているとか。利用機会は決して少なくないと言えるでしょう。

スペイン語

  • 習得難易度:3(1低~5高)
  • 利用機会:4
  • CP:4÷3=1.3
スペイン語はフランス語と同じくロマンス語に属し、特徴も似ています。男性名詞と女性名詞、動詞の活用などです。発音は母音が少ない分フランス語よりも易しく、ドイツ語より簡単という声もあります。全般的にはフランス語よりもやや簡単...といいたいところですが、学習環境はフランス語にかないません。総合的な習得難易度としてはフランス語と同じくらいと思われます。

利用機会ですが、全世界では英語、中国語に次ぐ重要度と言えます。南米圏での仕事や旅行機会があればほぼ必須といっても良いでしょう。また、アメリカでも移民を中心にスペイン語話者は増えており、世界最大のスペイン語国は人口1.3億人のメキシコです。アメリカではスペイン語母語とバイリンガルを合わせて5千万人のスペイン語話者がいるそうです。全世界では5億人以上に達します。

イタリア語

  • 習得難易度:3(1低~5高)
  • 利用機会:1
  • CP:1÷3=0.3
イタリア語はフランス語、スペイン語と同じくロマンス語に属し、特徴も似ています。特にスペイン語との類似性が高く、スペイン語話者がイタリア語を取得する(またはその逆)のは簡単だとか...。
発音はとても容易で、日本人にとってはカタカナ読みでほぼ通じるほどと言われています。学習環境は微妙なところ。フランス語未満、ドイツ語以上といったところでしょうか。全般的な難易度は、やはり良く似ているというスペイン語と同等かと思います。

利用機会はイタリアとその周辺国に限られ、話者数は6000万人ほど。はっきり言ってコスパ的にはあまり優先度が高くないですが、やはりイタリアという国の魅力が学習の動機になるでしょう。

ロシア語

  • 習得難易度:5(1低~5高)
  • 利用機会:1
  • CP:1÷5=0.2
ロシア語はスラブ語に属し、英語・ドイツ語系(ゲルマン語)、フランス・スペイン・イタリア語系(ロマンス語)とも異なる系統となっています。
まずは特有のキリル文字がハードルを高く感じさせます。文法的には格変化が多く、規則的ではあるが初学者へのハードルは高いといえるでしょう。発音は簡単と言われますが、独特なアクセントのルールがあります。学習環境も貧弱で、NHKのロシア語講座は過去の再放送がメイン。学校も「東京ロシア語学院」くらいではないでしょうか。全般的には難しい言語と言えるでしょう。
堂々たる国連公用語の1つであり、話者数は3億人近くいます。ロシアはもちろんのこと、旧東欧や中央アジアにもロシア語話者はひろがっています。また、ロシア語を習得していれば近しい他の言語(ブルガリア語、ウクライナ語、ポーランド語)の学習も容易だという。
しかし、全般には利用機会が多いとは言えないと思われます。ロシア美人とお近づきになりたいとか、何か特定の動機がないとなかなか厳しいのではないでしょうか。話せればかっこいいことは間違いありません。

韓国語(朝鮮語)

  • 習得難易度:2(1低~5高)
  • 利用機会:1
  • CP:1÷2=0.5
特有のハングル文字が課題ですが、文法は語順など日本語と似ており、日本人にとっては学習が容易とされています。発音もそれほど難しくはありませんが、パッチムという独自のルールがあります。学習環境は非常に充実していると言えるでしょう。韓国語のテキストも多く、学校も大都市であれば簡単に探せます。

話者数は南北朝鮮合わせて世界で7000万人ほどですが、北朝鮮に訪れる機会のない一般的な日本人にとっては、通用する範囲はほとんど韓国に限られます。しかも若い人を中心に英語を話せる韓国人も多いことから、正直あまり利用機会はないと思います。韓流好きなどの特別な理由がなければ優先度は低いでしょう。

ヒンディー語

  • 習得難易度:5(1低~5高)
  • 利用機会:1
  • CP:1÷5=0.2
横線が入った特有のデーヴナーグリー文字を使います。ハングルやロシア語と同じくこれがとっつきにくさを増していると言えるでしょう。発音は子音の中国語にもある有気音、無気音などの相違がありやや独特ですが、表記通りの発音なので覚えやすいとされています。文法はヨーロッパ言語っぽく、男性・女性・時制・単数・複数など活用が複雑です。学習環境も貧弱で、NHKのラジオ講座すらありません。全般的な習得難易度は高いと言わざるとえません。

話者数は世界でも中国語、英語に次ぐ規模ですが、ほとんどがインドに限られるため国際的な言語とは言えません。しかも、インドの公用語は地域によってまちまちであり、英語が通じることも多いので、それほど利用機会は多くないようです。現地で何か仕事がある、インドが好きだが現地で絶対ボラられたくないなどの事情がないかぎり、優先度は高くないと言えます。

タイ語

  • 習得難易度:4(1低~5高)
  • 利用機会:1
  • CP:1÷4=0.25
独特なシャム文字を使います。まずこの取得が難関です。文法的には中国語に近く、活用変化などもなくかなり単純と言えます。発音はやや鬼門で、いわゆる声調があります。学習環境は貧弱ですが、訪日タイ人の増加に伴いテキストなども若干増えつつあります。学校を探そうとすると大都市に限られるでしょう。
話者数は少なくとも7000万人。タイの他ラオスでもほぼ通じます。タイに用事がなければ必要ないでしょう。

アラビア語

  • 習得難易度:5+(1低~5高)
  • 利用機会:1-
  • CP:(1-)÷(5+)=0.2未満
日本人にとってだけでなくヨーロッパ人にとっても世界最難の言語の1つとして知られてます。
独特なアラビア文字を使い、右から左に表記します。文字の数は28個と少ないですが、語頭か語中かという位置によって文字の形が変化するという鬼仕様。発音もなじみやすいとは言えません(文字表記と音声は一致しているとされていますが、そもそもその表記ルールが難しい)。
文法は複雑の極みです。「語根」という独特な概念があり、この語根が変化して様々な意味に変わりますが、辞書には語根しか載っていないため文中の単語から語根を把握しないと辞書すら引けません。動詞は人称や時制によって26もの活用があります。名詞も複雑に変化し、2つの場合に双数形、3以上はさらに別の形に不規則活用したりすることもあります。

さらに、アラビア語にはコーランを記す聖なる言葉「フスハー」(正則アラビア語)と一般的な会話に用いる市井の言葉「アーンミーヤ」があり、アーンミーヤは地域ごとに異なります。日本で入手可能なアラビア語のテキストはほとんどがフスハーであり、アーンミーヤについてはエジプトなどメジャーなエリアについて大学等の講座がある程度です。

話者数は2億人以上。中東諸国、エジプトなどで使われていますが、前述通り地域ごとにアーンミーヤは異なります。普通の日本人にとっては利用機会も限られていると言えるでしょう。

このようにコスパ的にはあまりいい評価を下せないアラビア語ですが、サウジアラビア政府が運営する「アラブ・イスラーム学院」でアラビア語講座を行っています。授業料はなんと無料(教材費は別途)!
都内在住でアラビア語に関心があれば、検討してみても悪くないでしょう。

(大穴)インドネシア語

  • 習得難易度:1(1低~5高)
  • 利用機会:1
  • CP:1÷1=1.0
穴場です。世界で最も簡単な言語という説もあります。インドネシアは群島国家で、かつて全土で通じる共通語はありませんでした。近年になりマレー語をベースに共通語として整備されたため、ルールも合理的でシンプルです。文字はアルファベットで、読み方はローマ字読みなので発音も簡単です。文法も平易で、複雑な活用などはありません。

利用機会はインドネシアに限られますが、インドネシアは人口2億人を誇る東南アジアの大国。また、マレーシア語と近いため学習が容易になるそうです。数年程度の学習で言語バリエーションを1つ増やしたいなと思ったら検討価値はあります。

(画像クレジット MaxPixel;  Urban City Crowd Citizens People)

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